黒い羊はいます。茶色い羊も、灰色の羊もいます。
綿はどうかというと、ほとんどが白です。茶色い綿もありますが、店で見かけることはまずありません。
同じ糸の材料なのに、どうしてこんなに事情が違うのか。前回に続いて、羊と綿のタンパク質を調べてみました。
なぜ色のことを調べようと思った?
黒い羊はいるのに、綿はほとんど白いのが不思議だったからです。
手織りをしていると、糸の色は染めるものだと思っています。でも、もともと色がついている糸もあります。
羊の毛は、白いものも黒いものもあります。染めずにそのまま使えば、生成りやグレーの布ができます。
綿売り場に行くと、糸はほぼ白です。色つきのものは染めたものばかり。この差はどこから来ているのか、気になりました。
羊の色は何で決まっていた?
メラニンです。人の髪や肌の色を決めているものと同じ色素でした。
羊のタンパク質を調べると、メラニンを作る仕組みが一式そろっていました。
チロシナーゼという色素を作る酵素、PMELという色素をためる袋の材料、メラノフィリンという色素を運ぶ装置。全部で41種類ありました。
どれも人間が持っているものと同じです。日焼けで肌が黒くなるのも、白髪になるのも、同じ仕組みが働いたり止まったりしているだけ。黒い羊の毛と人の黒髪は、化学的には同じものでした。
アグーチが27個もあったのはなぜ?
毛色を決める遺伝子で、羊では特に重要だからです。
41種類のうち、27種類がアグーチという遺伝子の仲間でした。ひとつの働きに27種類は多すぎるように見えます。
アグーチは、毛の色を出すか出さないかを切り替えるスイッチです。羊の白黒は、ほぼこの遺伝子で決まることが知られています。
なぜこれだけ増えているのか、私には分かりません。ただ、白い羊が世界中で飼われているのは偶然ではありません。白い毛は好きな色に染められるので、人間が長い時間をかけて白い個体を選び続けてきました。その歴史が、この遺伝子のあたりに残っているのかもしれません。
茶色い綿もあるのでは?
あります。ただし、色素がまったく別物でした。
茶綿という、もともと茶色い綿があります。染めていないのに色がついているので、環境にやさしい素材として扱われることもあります。
では綿もメラニンを持っているのかと思って調べたら、ゼロでした。チロシナーゼもPMELもアグーチも、綿には1つもありません。
植物なので当たり前といえば当たり前ですが、実際に数えて0と出ると、はっきりします。
綿の色は何でできている?
フラボノイドです。お茶の渋みやブルーベリーの色と同じ仲間でした。
綿のタンパク質からは、フラボノイドを作る酵素が122種類見つかりました。
カルコン合成酵素が19種類、アントシアニジン還元酵素が17種類、ロイコアントシアニジン還元酵素が7種類。このあたりは、渋み成分であるタンニンを作る道筋です。
茶綿の色は、この渋み成分が繊維の中にたまったものだと考えられています。お茶を淹れた急須の内側が茶色くなるのと、近い現象です。
ちなみに羊にフラボノイドを作る酵素は0種類でした。動物は自分でフラボノイドを作れません。
2つに共通する色素はあった?
ひとつもありませんでした。
羊の色素系41種類のうち、綿が持っているものは0。綿のフラボノイド系122種類のうち、羊が持っているものは0。
前回、繊維をつくる仕組みに共通点がひとつもないことを確かめました。今回は色でも同じでした。素材の作り方も、色のつけ方も、完全に別々です。
それでも、どちらも布になります。そして人間はどちらにも同じことをしてきました。白いものを選んで増やし、あとから好きな色に染める。
糸を選ぶとき、こういうことを思い出すようになりました。手に持っているものが、まったく違う場所から来たのだということを。
私が使っているのは、クロバーの咲きおり40cmです。経糸を張るのが簡単な織り機です。買ったのは2008年。もう18年になります。
色の話を調べたあとだと、生成りの糸を張るときの気持ちが少し変わります。染めていない白は、選ばれ続けた結果の白なのだと思うようになりました。
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